BAMBINO!



それは小さく芽吹いた恋でした

きっかけは、あの人が私の努力を認めてくれて、私を支えてくれたから
思いを伝えようかと、思ったときもあった
けれど私はほかの女の子と一緒と思われたくなくて

告白もせず、隣にいるわけでもなく、ただ見ていた

けど、ときどき


それがとてつもなく悲しい


嫉妬をちらつかせて、気を引いてみようかな、って
思ったときもある、けど

(与那さん、また別の女の子ですね!)

なんて、いうものなら、なんかもうバレバレみたいな感じがするし
嫌われそうで言えるわけない
だから私はただ、見ている
同僚という立場という数少ない立場に満足して

ただ貴方の歌声を聞いている
このバッカナーレに響く歌声を
誰のものでもない、けど、誰のものでもある「愛」を

誰のものなでも無いのだから
ただ、この瞬間は私のものであってもいいと思う

けど、その「愛」の終わりは、すぐ 近づいてきて
この瞬間、私の高揚していた気分は急降下する
しかし気分とは裏腹に歌が終わると、部屋には拍手喝采の音が鳴り響く
ああ、私が貴方からの唯一の「愛」は終わった、とこの拍手でまた再確認するのだった


「お疲れ様です、カーポ・カメリエーレ(給仕長)」


歌が終わった後の補助は私の仕事
・・・といっても水を渡して店の状況を知らせるだけなのだが
この時間が私にとって唯一の「幸福」

「今日はとてもよかったです」
「ありがとう君に褒められると嬉しいよ」

今だに与那さんの言葉になれない私
その言葉に顔が熱くなっていくのが分かる
・・・この人は素なのか、ワザとなのか・・・たぶん両方だけど

「・・・それは光栄です、カーポ・カメリエーレ」

そう言って、赤い顔をしたまま水を渡した
対応が上手くなったなと我ながら感心した、昔ならうろたえていたのに

「顔真っ赤だね、どうしたんだい?」
「・・・与那さん・・・」

しかし今日は機嫌がいいのか、悪いのか
いつも深く追求しないのに、私の真っ赤な顔をのぞいて問い詰めた
私は顔が近くて限界ですからと少しうろたえつつ、与那さんを咎めた
けれど与那さんは微笑むだけで

君は素直だからね」

嘘はつけないし、正直だから
それが本物の言葉だって分かるんだよ


だから偽りの無い君が 僕は好きだよ


もう、なんか別の人が言ったら
告白なんかじゃないかと思わせるような言葉を吐いた
その言葉に心拍も熱も、すべてがあがっていくのはきっと私だけじゃない

だから、言ってしまった、いつもは絶対その先を予想できたのに

その裏に隠された、与那さんの心境も分かったはずなのに

気持ちが溶けて、こぼれてしまった


「・・・・・じゃあ与那さん」
「なんだい?」

「私が、与那さんに対して」
それは貴方のためだけに

「与那さんだけに」
他の人にはしないですから



「素直になっちゃだめですか・・・・・?」



薄暗い部屋で
熱が引いていない頬で、うつむいたまま
与那嶺さんの傍でつぶやいてしまった


偽りが無い?
貴方が好きだという事を隠している私なのに

正直?
告白をしないで、満足している私が


その言葉を発したとき
いつも五月蝿いくらいの声がバッカナーレに響いているのに
ぜんぜん聞こえなくて

時間にしたら、たぶん少しのこと
あとほんの数秒したら私は気づいたのに
けれど私が気づく前に、 与那嶺さんは答えを出してしまった


「・・・・君、僕の前で素直になっちゃだめだよ」
「・・・・っ」
「これ以上はだめだ」


僕は君が好きだから


その言葉を聞いた私は、顔を上げ与那さんをみつめた
けれど、すでに私が与那さんを見つめたとき
与那嶺さんは、さっきと変わらない笑顔で


「・・・・与那さ、ん?」
「さあ、仕事だね」

与那嶺さんに言われて、やっと今の自分に気がついて
やっぱり「あの人」の事を愛しているのかな、と
頭の隅で、別に今過ぎらなくてもいいのにと思いつつ、そんな事が浮び
そして私は

「あ、あ、ご、ごめんなさい!」
君?」
「き、気にしないでください!」


なんかちょっ予定外と言うか、あの雰囲気が、ああ、ですか、ら
急に恥ずかしくなって、そう言いよどむとその場所から逃げた
与那さんには悪かったけど、言うはずの無い事を暴露してしまったのに
一緒にいられるほど、私の度胸は据わってなかった

たぶん時間がたてば、収まるだろうから
今はただひたすら、階段を下りて
待っているだろう伴君のヘルプに向かった
その間に今度会う時にどう誤魔化そうかと悩む

・・・たぶん、軽く流されるのだろうなぁと結論付けた・・・


それはそれで寂しいけど・・・


・・・・ああ、早くこの熱が収まって

あの人の「愛」を感じたい


あの時だけが唯一


私があの人の愛をものにできるのだから




貴方の声を聞いていたい