落第忍者乱太郎




いつも修行している文次郎を見て純粋に負けられないって思って、

いつか一緒に修行できる日を楽しみにして始めた夜の修行
なのに

「いたぁい・・・」
「それだけ捻ってればねぇ、もう訓練なくてよかったよ」
「・・・・よりによって足を捻くなんて・・・・」


(寝不足で訓練中に足挫くなんて本末転倒だわ・・・・)


包帯と湿布を巻き終えた痛む足首をそっと抑えた
薬を仕舞い終えた伊作が
「明日は休日だし、一日安静しててね」

動かすと酷くなるし、治りも遅くなるから、と至極真面目な顔をしていった
普段おっとりしている伊作に言われると
余計に自分の怪我が深刻に見えて焦りを感じる

「・・・・・修行したら・・・だめ?」

追いつきたいと思って始めたのに
この休日にもっと強くなろうと決めたのに
だから恐る恐る修行の是非を伊作の顔を覗いながら尋ねたが


「あたりまえだよ!!僕の話聞てる?!」
「・・・・はい、ごめんなさ〜い・・・」


案の定、怒りに体を震わした伊作に全否定された
怪我の事になると少しムキになるのを最近知った


「もう、心配かけないでよ・・・」
「・・うん・・・・」

心配そうに見つめる伊作に、申し訳なさそうな顔をする
の様子にようやく安心したのか柔らかな笑顔を浮かべた


伊作が怒るのは優しさ故だからこそなんだけど
やはりこういう時、つくづく彼は奪う者として生きるより
癒す者として生きた方が似合うと思ってしまう

「・・・ありがとう伊作」
「どういたしまして」


伊作の笑顔にこちらも自然に笑顔になる
そうお互い笑い合っていると


「・・・・おい、

「・・・ふきゃぁ!」


完全に油断していた所に
急に声をかけられ思わず悲鳴をあげる
その声に眉間のシワがさらに増えた事実には誰も気づかない


「・・・も、文次郎!どうしてここに?!」
「文次郎じゃないか、怪我でもしたのか?」
「・・・・別に」

伊作にそう問われて不機嫌そうに顔を背ける文次郎
といってもその視線はから逸らしていないのだが


(・・・・・な、なにか怒ってる?)


文次郎の視線に何か殺気めいたものを感じて
背筋が寒くなっていくような気がするだが
それを指摘するとさらに悪い予感がしたのでやめた


「ああ、ちょうどいい文次郎悪いけどを運んでくれないか?」
「え、でも伊作」
「ああ、大丈夫だよ病人部屋には今他の女子がいないから文次郎が入っても」
「い、伊作!」


そういう問題じゃないよ、と反論しようとした
私の言葉は文次郎の行動によって飲み込まれた



―――――ぐいっ――――



「きゃぁ!!」

「うるさい騒ぐな」



文次郎がいつの間にか私の側にいて急に体が浮いた
足の怪我に触れないように横抱きで
文次郎が落ちないようにしっかりと私を抱きしめているわけで
その胸の逞しさに驚いたり、触れ合った体温が妙に恥ずかしくて


「も、もんじ・・・」
「じゃあな伊作」
「うん、も安静にしててよ」
「う、うん・・・」


保健室から少し離れた部屋まで連れていかれるまで
恥ずかしいので誰にも会わないようにと願い大人しくするだが
見上げた文次郎の顔は至極真面目のようにみえたけど


(・・・・・・機嫌悪いよ)


他人から見れば普段と変わりない顔に見えるが
自分にはどうみても怒っている雰囲気を漂わせている
どうして怒っているのだろうか?
その理由を問いかけようとしたが部屋の前についてしまって

「ここか」
「あ、文次郎私が襖あけ・・」
「大人しくしてろ」


パァン!と軽快な音をたてて閉まっていた襖は開いた
しかし文次郎の腕はで塞がれている
つまり器用に足で襖を開けたという事

「・・・文次郎、行儀が悪いよ・・・」
「手が使えないからな、臨機応変だ」
「だから私が開けるって言ったのに・・・」
「うるさい、怪我人は大人しくしてろと言ったはずだ」

そう言われれば言い返す術もなく
文次郎は私を部屋に運びこむ


「・・・わ、お布団もう敷いてある」
「そりゃ保健室なんだから誰かが敷くだろ」
「後でありがとうって言わなきゃなぁ・・・」
「・・・・勝手にしろ」

(・・・・あ、また機嫌悪くなった)


文次郎の投げやりな声に
また何か私は口を滑らして怒らしてしまったのかと焦るが、
さすがに怪我人の私に文次郎は報復するわけでもなく
すでに敷かれていた布団の上に静かに横たわらせてくれた


「あ、ありがとう」
「傷は痛むか?」
「ううん、大丈夫痛く無かったよ」



伊作が誰かに言いつけて敷いてくれたと思うと
悪いなと気がしたけど、同時にそこまでやってもらわなければ
寝ることさえままならない自分が少し嫌で


「・・・・で、なんで怪我したんだ?」

「・・えっ、それ、はその」


文次郎に追いつきたくて
怪我をしたなんて少し言いずらかった


「あ、のね、いやその・・・・」
「なんだ早く言え」
「いえあの・・・あ!、も、文次郎大丈夫なの会計委員は!?」
「っあ!?」


(ひいぃぃ!?怖い!!)

話を誤魔化すほどに文次郎の機嫌が悪化していく
もうそれは普段なら、声をかけようか躊躇するくらい


「・・・ほ、ほら仕事あるでしょ?皆待ってると思うし・・・」
「後で片付ける」
「い、委員長が遅れちゃいけないかなーなんて・・・」
「そこまでうちは無能じゃねえ」
「・・・うー・・あ、でも伊作がいるし!」


私の心配はいいよと、と文次郎を追い出して誤魔化して
そのまま理由をかわそうかと思った刹那


「ああ゛お前ふざけんじゃねえぞ!?」


急に怒鳴られて挙句の果てにバシッと頭を小突かれた
問いかけを避けようとした私にも少しは非はあるが
叩かれる筋合いはない


「・・・はぁぁ!?何すんのよ!!?」
「うっせぇ!!お前が話を誤魔化すからだろうが!」
「うるさいわね!!怪我した時なんてどうでもいいでしょう!?」
「どうでもよくあるか!!」
「よくないなら怪我人に何するのよ!!」


売り文句に買い文句の交差
咎める文次郎、言い返すに二人の口喧嘩は止まらない


「だからなんでそうなったんだよお前それでもくノ一か!!」
「まだ卵!!だから文次郎みたいなりたくて訓練して・・・っ!!」


マズイ、と思って両手で口を押さえた時はもう遅かった
顔が熱くなっていくのが分かる、たぶん耳まで真っ赤だ
怒鳴るのを止めた文次郎の顔を恐る恐る見上げると


「・・・ほーう、俺みたいになり、か?」

「うっ・・・・」


さっきまでの不機嫌さはどこに消えたのか
機嫌の悪さを表す眉間の皺はなくなり
文次郎の顔にはニヤニヤと悪い笑顔が代わりに浮かんでいる


「えーと、違うの!・・・だからその!」
「何が違うんだ?」
「う・・・」
「どうした?ほら言ってみろ」

言い訳すればするほど文次郎の口元が上がっていくのが分かる
その余裕さに悔しさと恥ずかしさが余計に上がっていって


「〜〜〜〜っ!もう知らない!!」


布団の中に潜り込んだ
もちろん頭まで布団をかぶりこんで
だがそんな抵抗も空しくあっという間に布団を剥ぎ取られてしまって
おまけに


「・・・・も、もんじろう?!」

「しょうがねえなぁお前は」


すぐ顔に側に文次郎がいる
その近さが恥ずかしくて、布団をたぐりよせようとするが
その手を掴まれて

「隠れるなよ、お前の顔が見えない」
「・・・み、みなくていい!」
「うるさい見せろ」

手を掴まれているので、大げさに抵抗する事もできず
私の反応を楽しむ文次郎
髪や顔をなでたり、先ほどの質問の答えを強請ったりで

「まさか、俺を見習って怪我するとはな」
「・・・だから言いたくなかったのよ・・・」

(こんなことになるから)

恥ずかしさに涙目になりつつも
文次郎の手の暖かさにまどろみを感じてついうとうとしてしまう

「おい
「・・・・ん・・・?」
「なんだ眠いのか?」
「・・・ううん・・・」

「・・・・・・忍びたるものがやすやすと寝るな」

文次郎の雰囲気が穏やかになったのが分かる

「・・・・も、ん次郎・・・だから・・・かな」

心地よさにうっとりとするをみて
目を細め、つぶやく文次郎

「・・・おい、こんな姿伊作に見られたらどうするんだ」
「まさかぁ・・・伊作が来たら目が覚めるわよ」

文次郎はともかく
卵ですけど、気配の修練くらいできるし

そう文次郎に伝えると
少し照れたような顔して


「・・・・・・ばっ!、っ忍者たるものそのくらいだな」
「・・・もん・・じ・・・もしかして・・・焼いてる・・?」
「馬鹿か!だいたいなんで俺が!!?」

の言葉に顔を逸らす文次郎
からは顔が見えないが耳が赤く染まっているのが見える


「・・・・もんじ」

「・・・・あっ?なんだ」

「だいすき」

「〜〜〜〜〜っ!!!!」




その日、めったに見られぬ文次郎の焦った顔を拝めた
満足な顔をして眠りについた





君の隣に立っていたいから