ドロヘドロ



ある日、私は煙に呼び出された
たぶん原因はこの間の魔法の失敗

・・・お前は可愛い部下だ、だがな・・・」

自分の意思で魔法を使えないのは下っ端以下だ
もっと修行しろ

「・・・・・はぁい・・・」

そう煙に言われてしまい、私は少し憂鬱になった
魔法不得意なわけじゃなく成功すれば、ちゃんとできるのだけど

私は自分の魔法がまだよく分からない

だから少し他の人と比べて魔法との意思の繋がり
・・っていうのかな?それが上手く出来ない


「・・・もっと強くならなきゃ・・・」

魔法でつまずき煙に怒られると、いつも思う
でないと心を守れないから


心の相棒は能井で
能井の相棒は心で

私も魔法使いだけど
あの二人の関係には程遠い


「・・・心・・・」


遠い、遠い何もかも
二人はいつも仕事で、共にどこかに行く
けれど私は危ないから、という理由でいつも置いていかれる
それはとても悔しいと思う、だって心の力になれないから


「おーなにやってんだこんな所で?」
「ひぁ!し、心!?」

腰に伸ばされた手の感触に、くすぐったさが走り今までの思考がとぶ
声のおかげでこそ、その本人が誰か分かるけど
生憎、私は心の気配が分かるほど強くない・・・心臓に悪い・・・

「いきなり声かけないで」

私が日頃から言っているのに、少しも守ってくれない 心に
少し怒った様に咎めても

「無理、触りたいから」

心は私の言葉など気にせず、構わずキスをして髪を撫でている
しばらく会ってなかったので、嬉しいといえば嬉しいのだけど

「心、とりあえず離して」

今の状態だと心の顔が見えないので
どうにかして腕から逃げようとするけど

「・・・・逃げるのか・・・」

心の声が変わった瞬間、まずい、と思った。心は切れたら怖い
私の行動を勘違いした心は逃がさないように、腕に力を込める
その痛みはまるで圧迫機でキリキリと絞められるようで
焦った私は

「し、しん!に、逃げないから」
「・・・・・・」
「だ、だからあのままだと」

心の顔が見えなかったから、じゃなくて・・・
そ、そう、心を抱きしめたかったから、ちょっと離れたかったの・・・・

だんだん小さくなっていく自分の声に呆れつつ
少しひどい言い訳で誤魔化した・・・だって嘘はついてない・・・

「・・・だ、だから、ね。ちょっと離して・・・」

私が安心させるように心の指にそっと手を絡ませると
心はようやく私を離した


「はあ・・・もう、いきなりなんな・・・!」

「やあ久しぶり」
「・・・心」

・・・かと思えば、私が振り向いた瞬間
腕を伸ばしてまた閉じ込めた

「不意打ちはやめてっていってるのに・・・」
「何んでだ?今のはちゃんと了承を得たぞ」
「・・・もういい」

どうやら分かりそうにない、いや分かってくれない心に
私は言うのをあきらめ、胸に頭を預けたけど
その際に微かに香った血のにおい

「・・心・・・また仕事してきたの・・・?」
「・・・分かった?服着替えたのに」
「ん・・・・」

・・・またおいてかれたと、少し拗ねた感じに言ってしまった
そんな私をなだめるため心はキスを落とす
髪に、頬に、瞼に、唇に

、我慢してくれよ」
「藤田さんや恵比寿さんは行ってるのにぃ・・・」
「・・・・・・・」

いつもは私の言うことなんか聞かないのに、
この問題だけは「申し訳ない」と思ってくれているらしい
弱いのは私のせいだけど、連れて行かないのは心の意思だから

「ごめんな、・・・」
「・・・謝るなんてずるい・・・・」
「ごめんな・・・機嫌直してくれよ」
「・・・ず、るいよ・・・」

けれど本当に欲しいものは「ごめん」キスじゃなくて

弱くても認めてくれる心の「意思」が欲しくて


私はそのキスから逃げるように心の胸に顔をうずめた




傍にいる力は無く