FINAL FANTASY TACTICS

 
『王女オヴェリアの祈り』
ジークデン砦の悲劇より約1年…
その頃、畏国は国王亡き後の覇権をめぐりラーグ公とゴルターナ公の間で
緊張が高まっておりいつ戦争がおきても不思議ではない状態になっていた
そんな中、来るべき戦争を避けるため修道院で暮らしていた王女オヴェリアをガリオンヌへ
移送する計画が密かに進行していた…






――――オーボンヌ修道院礼拝堂――――






そこは静寂な部屋だった

窓からこぼれる光と蝋燭の炎が映し出すのは赤い絨毯
神には触れる事が無いように円卓の途切れた、けれど神聖な祈り場
そして、そこにたたずむ神の化身に

王女オヴェリアは祈っていた


「…我ら罪深きイヴァリースの子らが神々の御力により救われんことを」
「さ、出発いたしますよ、オヴェリア様」
「もう少し待って、アグリアス…」
「すでに護衛隊が到着しているのです」


アグリアスと呼ばれた騎士は、王女の願いに少し困った表情を浮かべ
そんな彼女に代わり神父シモンは優しく呼びかけた


「姫様、アグリアス殿を困らせてはなりませぬ。さ、お急ぎを…」


しかしオヴェリアは祈りをやめようとはせず皆を困惑させた
は王女に聞こえぬよう


「アグリアス様・・・・」
「分かっている・・・だかオヴェリア様が動かぬ以上は・・・」
「いいえ、私は・・・・」


構わないですが・・・・そうが感じたとき
けたたましい扉の開く音と同時に、 怒鳴り声が響きわたった


「まだかよ! もう小一時間にもなるンだぞ!おい!」
「すみません・・・」


ガフガリオンの叱責には肩を震わせ
もう一度すみません、と小さくつぶやいた
だがそんなの様子で納まる程ガフガリオンの機嫌は良くなかった


「っは、お前も同じく神様にお祈りしてたんじゃないのか?」
「・・・・・そんな事は・・・」
そう反論するが、目線は床の赤絨毯に下がるばかりで
「隊長、自分がイラついてるからって当たるのは大人気ないですよ」
「うるさい!ラッド!」


予想通りのガフガリオンの叱責にラッドは肩をすくめた
王女があまりにも遅いと言うので説得してこいと任されたのが
約三十分前・・・怒るのも無理はなかった

だが、ガフガリオンも無茶だった


「・・・、大丈夫かい・・?」
「ラムザ・・・」


女同士で修道院という共通点があるとはいえ、それを差し引けば
たかが一介の傭兵で、は会った事すら無く
おいそれ王女に命令出来るはずがなかった
しかし任されたのはこなすのが仕事、どうしようかと困り果てたの前に


「無礼であろう、ガフガリオン殿。王女の御前ぞ
それにはオヴェリア様の意見を尊重してくれた、むしろ称えるべきだ」
「・・・ふん・・・」

雇い主の言葉に面白くなさそうに顔を反らし
ガフガリオン達は大人しく跪いた

「これでいいかい、アグリアスさんよ・・・こちらとしては一刻を争うンだ」
「誇り高き北天騎士団にも貴公のように無礼な輩がいるのだな」


(・・・相手は貴族なのに温和に出来ないのかね、うちの隊長は・・・)

二人が睨みあっている中、ラッドがラムザに耳打ちする
しかしラムザは呆れる様子は無く、どこか苦悩した顔で

(・・・・身分じゃなくて・・・人柄的に合わないんだよ・・・きっと・・)

絨毯の上に置かれた手を強く握り締めた


「辺境の護衛隊長殿には十分すぎるほど紳士的なつもりだがね…
それに、オレたちは北天騎士団に雇われた傭兵だ。あんたに礼をつくす義理はないンだ」
「なんだと、無礼な口を!」
「あ、あの二人とも争いは・・・」

そうが一触即発の空気を止めようとした時



「わかりました、参りましょう」






凛とした、声が響く

その声で皆が納得したように事態は収まった
けれど、は、どこか不安げに


「・・・・あ、の、・・王女様・・よろしい、のですか・・・?」

先ほどとは矛盾した行動をしている、事は分かっている
けれど最後の別れになるかもしれないと急に自覚すると
聞かずにはいられなかった・・・しかし

「おい!!お前は黙ってろ!!!」

「・・・っ!」

余計なことを言うな、とばかりガフガリオンに睨まれる
そのあまりの恐ろしさに、はただ謝るほかなく
睨まれた視線に身を小さくした


(あーあ可哀想に、も余計なこと言わなきゃいいのに)

(・・・そう思うなら助けたらいいじゃないか)
(まさか今は黙っているのが吉、が怒られるだけさ)
だからお前も何も言わないんだろ?ラムザ?
その質問にラムザは何も言わず

「・・・・・・・・・」

ただ眉間の皺を寄せ
どこか不安げに瞳を揺らすを見た



「どうかご無事で」

もう戻ってはこれないだろうと思われる、最後の別れの儀式
神父シモンとの別れの様子をみて
はなんとも言えない気持ちになった


別れというのはどうしても
一年前の「あの事件」を思い出してしまう





「・・・ディ、リータ・・・」


は大切な名をつぶやいたが、その声を紡ぐのは

ひ、どく胸が痛む



助けることも、謝ることも出来なかった大切な人
薄れゆく意識の中で最後に見たのは

―――――赤く、熱い、炎だけ・・・





「・・・・ねえ、ねえ

「・・・・あ、うん・・そうだね・・」
「・・・僕はまだ何も言ってないよ・・・大丈夫かい?」
「あ、ごめんね、ちょっとボーとしてたの・・・」

がそう答え顔を反らすとラムザは怪訝そうな顔をしたが
その視線から逃れたくて、視線をずらした

「シモン先生も」

たったそれだけの簡素な挨拶で別れは終わり
やれやれと息つくガフガルオンが扉に向かおうとした


そのとき






「アグリアス様・・・、て、敵がッ!」






扉から血を滴らせながらアグリアスの部下が飛び込んできた
全員、弾かれた様にそちらに視線を向け

「ゴルターナ公の手の者か!?」

神父シモンが手を差し伸べると傷ついた部下は崩れ落ち
その姿を見たアグリアスは真っ先に飛び出した


「ひどい・・怪我・・・・・・」
が回復魔法をかけながら、悲愴な顔になりそうもらした
「・・・ま、こうでなければ金は稼げンからな」

その台詞に嫌悪感を示したのだろうか
ラムザは一瞬顔をしかめた、それに気づいたガフガリオンは

「なんだ、ラムザ、おまえも文句あるのか…?」
ガフガリオンが視線の主を鋭く睨みつけるが
「・・・僕はもう騎士団の一員じゃない。あなたと同じ傭兵の一人だ」



そう言い切るラムザの目は、どこか悲しそうで
けど、かけられる言葉は

は知らなくて



(ラムザ・・・・・)



信じていたのに、信じられなかった、兄弟の絆

あの日がなかれば

失うものはなかったかもしれないのに





「・・・そうだったな。おい!何してやがる!」
「え、あ、け、怪我人を置いては行けません・・・!」
「知るか!そいつが死のうがこっちには関係は無い!」
「・・・・っ!!」







『ティーターッ!!!!!』





過去の叫びは、を苦しくさせる

まるいで息が出来ないように


けれど


「・・・・す」
「っは!?」
「イ、ヤです!嫌!助ける力があるのに!見殺しにするなんて!」
「・・・このっ!」
!!」

「やめてください!」

「・・・王女様」

後ろからオヴェリアの声が聞こえガフガリオンを制止させる
だが

「これはこっちの問題だ口を出さないで貰おうか?」
「・・・神の前で血の争いは許されません」

それに貴方の仕事は、仲間を傷つけることではないはずです、違いますか?
オヴェリアが強い眼差しで射抜く

「・・・っちい!おいラッド!ラムザ!行くぞ!!」

分が悪いと思ったのか
埒が明かないと感じたのか、扉からラムザ達を引きつれていった

最後に心配そうにラムザがちらりと、振り向いたが
ガフガリオンに呼ばれてすぐ出て行った

「・・・・はぁ・・・」
その後ろ姿を見て、この先に起こる事を予想し
小さくため息をついた

「・・・殿、貴方は間違ったことをしていませんよ」
「あ、神父様・・・・・」
「おかげで大事には至らなかったようですな・・・」
「・・・はい・・・」

後で叱られるのは嫌だったが
やはり目の前の死を無視するのも嫌だった
・・・・は助けられなかったから

「オヴェリア王女様もありがとうございます、このどんな・・」
「・・・・いいえ、よしてください」
「オヴェリア王女様・・?」
「私も王女の私を守ってくださったこの方に」


死んで欲しくはありませんし・・・そう王女は自嘲気味に悲しい目をした
まるで王女でなければ価値も無いという言い方に
は何も言えずただ視線を落とした


「神よ・・・」

そう祈っている彼女の姿は
王女などではなく、一人の人に見えたのは

私の願望だったのだろうか





あの日々が戻ればいいのに


そんな願いを、この王女様に映しみていた








王族がみんな王女みたいな人なら、幸せな世界だったかもしれない


そんな願いを込めて主人公は王女を見ていた