ASSASSIN'S CREED



いや・・・

嫌です!

イヤです師父!私は教団のために殉教者に為れといわれるならば、いつでも捧げましょう

殺せというならば、敵を地の果てまで追いかけます!

ですからどうか、どうか――――!







・・・そこで目が覚めた、体が震えていた、寒い

嫌な夢を見た、遠い過去の夢、逃れられない夢
窓の外を見ると夜中と明け方の境目ぐらいの時間だった

「・・・やな夢・・・」

は憂鬱そうに寝具から起き上がると顔を洗うために歩き始めた
部屋の外にある大量の書物と書類が重なった机が目に入る
一冊の帳面が落ちていたので何気なく足を立ち寄らせる
書き込みすぎて小汚くなったマリクの治療法が書き記された物

「・・・こんなの」

は恨み言を吐き捨てるかのようにその帳面を地面に叩きつけた
帳面から破れた紙が地面に広がる、だがの目は空虚で
それを他人の出来事ように映しだしていた

しかし、は急に膝から力が抜けたように座りこみ
そして散らばった紙を泣きそうな表情でじっと見つめていた


・・・なんで・・・




どうして・・・











「・・・報告は以上」

今朝の夢の影響もあってか普段より疲れた様子で語る
情報のためとはいえ診療所では必死に治療するので体力はいるし疲れるものは疲れる

「・・・だいぶ疲れているようだな」

珍しく顔色が悪そうにしているを見て思わず心配するマリク
瞼をキツク何度も閉じたり開けたりして声にも疲れが見える

「・・・別に夢見が悪くて今日はあまり寝てないの」
「どんな夢を見たんだ?」
「アルタイルが空から落ちてそのまま海に沈んでいく夢」
「・・・」

なんとも言えない夢にマリクは言葉を詰まらせる
渋い顔をするマリクを見ては冗談よ、と無表情で言い放った

「・・・おい」
「眠い・・・」

怪訝そうな顔をするマリクだがはそれ以上答える気がないようで
マリクは追求することをやめた
は人当たりがよくお喋りだが、調子が悪いとあまり話そうとしないので
稀に性格が変わったかのような印象を受ける

「・・・もう休んでいいぞ」
「まだマリクの腕診てない・・・」
「一日くらい治療しなくても構わん」
「よくない」

先ほどの憂鬱そうな雰囲気は一変して、強い口調で
有無を言わせずはマリクの言い分を却下した

「一日一回は必ず診なきゃ駄目」
「・・・腕ぐらい自分でほぐせる」
「それだともう片方の肩に負担がかかるから結局よくないの」

腕に関してはすぐにムキになる処があるはマリクに詰め寄る
その様子にマリクはやれやれと溜め息を吐く

「あー分かった分かったそうむくれるな」
「・・・むくれてない」
「どこがだ」

そしてマリクはの顔に手を伸ばし親指を添えた・・・
かと思えば、人差し指まで追加しての頬を軽く抓った
柔らかくて弾力のある頬からは空気が押し出され
の唇からはぷっ、と小さく気の抜けた音がもれた

「〜〜っ!マリク!」
「ほ、らみろっ・・・」

顔を赤くして怒るの姿にマリクは声を押し殺すように笑う
は頬にあるマリクの手を急いで引き剥がそうとするが
マリクが自分の頬の肉をつかんだままなので、当然痛い

「・・・マ、リク痛いから!」
「ックハハ・・・俺は何もしてないぞっ・・・」
「はな、してっ!」

は必死に訴えるがマリクはなかなか外そうとはせず
マリクの指を両手でこじ開け、ようやく指から逃れられた

「マリク!腫れたらどうするの・・・!」
「心配ない、すでに顔が赤いから誤魔化しが効く」
「そういう問題じゃない!」

自分の片方の頬をさすりながら恨めしそうにマリクを見つめるだが
当の本人は笑うばかりでまったく気にしていないようだった

「マリクっ!私で遊ぶ暇があるなら早く終わらせ・・・っ!」
「・・・・・・結局その話に戻るか」

「えっ?」


話を振り出しに戻したにマリクは気まずそうな顔をする
話が飲み込めずは目を大きく開け、瞬きを繰り返す


「機嫌を損ねて帰るかと思ったが・・・どうやら甘かったようだな」


その様子を見たは面を食らう
どうやらマリクの目論見ではからかったが怒って
治療もせずに帰る予定だったらしい


(あのマリクが・・・)

冗談を交えて自分を帰らせてくれようとした気使いには言葉に詰まる
マリクに気を使わせるなんて、自分は何を―――


「・・・どうした?ぼーとして」
「ううん、なんでもない・・・」


クーは自分が情けなくなり泣きたくなった

自分は何のためここにいるのだ




ねえ、僕にはすごい兄さんがいるんだ

お兄さん?

そう、ちょっと怖いけどすごく強いんだ!





・・・・腕を失った頃、マリクを見かける度に疲れた顔をしていた



【マリク目の下に隈ができてるけどどうしたの?】

か何でもない・・・】
【・・・その台詞は聞き飽きたの、何でもないなら世間話くらいできるでしょ?】
【っは、相変わらず尋問誘導だけは巧いんだな】
【ふふ、ありがとマリクに褒められて嬉しいわ】
【・・・皮肉も通じないやつだな】

話を聞くと夜腕に痛みが走り眠れないのだと、そう言っていた
痛みを取り除くぐらい私にも出来るのではないか――――
そう思い込んで必死に探した

教団にあった本を読み漁り、暇があれば町医者に話を聞くため足を向けた
強い薬を使えば眠れるのではないかと思い商人に金を使った
都市の病院に忍び込んで医学書を読んだ事もある
けどなかった、何も、何も

何も無かった!


「・・・っ」

本当に顔色が悪いぞ」
「・・・なんでもない早く始めるわ」
「お、おいこら」

は机の裏側に回りこみマリクを掴む
左腕部分がないのでマリクの上着の腰を引っ張る形になるが
転ばないように気をつけて部屋の外に連れ出そうとする

「・・・ほら、マリク」
!だから調子はっ・・・!」
「平気」
っ!」

連れ出す手をつかまれ声を荒げるマリクにようやくは立ち止まる
手をひねり上げられは強制的に正面を向かされる

「いいかげんにしろ!」
「・・・マリク」

普段のならたじろぐ処だが今のは違った
目こそ確かにマリクを見つめていたが
それは虚ろで心はどこか遠い所を見ているようで

「治療はいや・・・?」
「そうじゃない!俺は体調の悪いを使ってまで治療しようとは思わん!」

見くびるなといいたげなマリクには言葉を詰まらせる
普段がマリクの立場なら同じ事をする
だが今日のは様子がおかしかった

「・・・それを決めるのは私の権限で管区長ではありません」
「なっ・・・!」
「マリクお願いだから言う事を聞いて・・・」
「・・・なぜそこまで執着するんだ!」
「それは・・・」




(だって・・・)





【―――――】なんてしたくなかった

兄弟が傷ついて、その人を救える方が喜びが大きかった

もっと助けたいと思った―――違う、それは建前で私は逃げてしまった






ねえ、僕もいつか白の法衣を貰って飛びたいんだ―――――




カダール、私の兄弟

マリクの弟
仲のよかった兄と弟

生きてればきっと優れた暗殺者になってたはずなのに




(・・・私とは違って・・・)



昔の記憶を思い出す、綺麗な頃の記憶

っ」

・・・頭がいたい、後頭部から襲う鈍い痛みが治まらない
顔を歪めふらつくをマリクが支える

「・・・マ、リク」

マリクに抱きしめられはどうにか倒れることを免れる
は早く立ち上がなければと思うが体が重くて動けない

「しっかりしろ!頭が痛いのか?」
「ご、めんなさい」
?」


・・・ど、こにもないの





――――いや・・・!


――――嫌です、イヤです師父!





――――私は娼婦の真似事などしたくはありませ――――










ただ安らかに夢を




ただそれだけの話なのに、どうして上手くいかないのか