ASSASSIN'S CREED



鷹のような獲物を狙う捕食者の目
怖くて、敵意のある目
怒っている目
あざける様な、蔑む目

私の嫌いな目



「・・・っ」




・・・何故だ

何ゆえ放棄する―――



その様子に思わずは触れていた手を震わせる

繋いだ手を離そうかと、知らず知らず指先に力が入る



















「すまん・・・ただの八つ当たりだ」



遠ざかろうとしたの手をマリクは絡め取り、彼女の指の間に自分の指を通す
離れていくのが惜しい――そう思ったマリクは無意識のうちに
指と指を強く結び、再び距離がひらく事がないように手を握る


「マ、リク」
「怖がらせて悪かった・・・」


目を閉じたマリクは眉をしかめながらに謝罪する
ため息もつく程で余程反省している様子が伺える

まさかマリクから手を握り返されると思っていなかった
目を丸くするもすぐに平静なふりをした

「・・・う、うん」


繋がれた手が熱くて動かそうとするけど、それはマリクの甲に指を滑らし
肌の感触を確かめるような行為にしかならなかった
そしてが指を動かすたびマリクもの肌を堪能するように
優しく手を触るので、お互いの指先が交互に撫で合っているような感覚になり
刺激が更に伝わって来てくすぐったい

(・・・・っ・・・マ、リク・・)

そう、ただむずがゆいだけだ
現にマリクは手持ち無沙汰を埋めようとする感覚で手を触っていて
表情などと違って照れている様子がない

は頬に熱が溜まっていくのを自覚しつつも、そう思いこむ事にした


「き、気にしてない、から、平気・・・」

「いいや、今回はに当たりすぎた・・・すまない」
「仕方がない、よ、今日は機嫌悪いの、分かってるから」


いつもは本当は優しいのだ
少なくとも今日みたいな意地悪な事は言わない










・・・」





マリクは今までも何度かこういう苦い経験をにさせてしまっている

だが過ちを犯しても其の度に自分を気遣うにマリクは
心に暖かいものが満ちていくのが分る


「えっと、私もマリクを蔑ろにした訳じゃないのよ?その、分かってもらえると嬉しい・・・」
「あたりまえだ、ほど俺を助けてくれる兄弟はいない」
「マリクったら、そ、そんなに煽てても何にもでないんだから・・・」

笑いながら照れるを見てマリクは気が緩み穏やかな表情になる
現にだけだ、腕を失ってから荒れた時期から今に至るまで傍にいるのは
が医療を知っていると言うのも大きいが
それでも本当にエルサレムまで付いて来るとは思わなかった


は本当にお節介だな」

「・・・困っている兄弟を助けるのは当然だと思うわ」
「その当然が出来ないのが多い」




カダール、カダール
マリクの弟

いなくなってしまった兄弟




そのまま黙り込んでしまったマリクに
は繋がれたマリクの右手に空いていた手をそっと重ねる

(・・・まだ不安定よね・・・)

このまま落ち込んでも仕方がない
沈んでいく気持ちを吹き飛ばそうとは笑顔で冗談ぽく答える


「でも、私はマリクが嫌だって言ってもお節介するから我慢してね」
「・・・俺はそこまで助けは要らんぞ」

ほそく微笑ながらはマリクと目を合わせる

「私がしたいからするのよ、諦めて受け入れてください管区長」
「・・・ほどほどにしてくれ」
「大丈夫、お節介は師範並みだから」
「何が大丈夫か分からんぞ」

楽しそうなの様子にようやくマリクは穏やかに笑い声を上げる
それにつられても声を上げて笑った
















「そうだな、最近はの性格に感謝している」


一通り笑って二人が落ち着いてきた頃
マリクは改まってを見つめて、呟いた

お人よしで兄弟に利用されているを昔は、どうしたものかと軽く見ていたが
いざ甘受する立場になると任務とはいえ腕をなくした後の生活も支えてくれて
何の食材が体にいいとか、腕が痛む時は治まるまで治療してくれる
これほど心安らぐ事はない、素直に感謝を述べるとは少し複雑そうな顔をした

「どうした?」
「ううん、褒めてくれて嬉しいよ」










いや

嫌です・・・!








私が逃げ出さずにそんな機会が訪れれば
この感情は素直に受け止められただろうか?
マリクは私に失望するのだろうか?



不安が渦巻くは胸の内に秘めた言葉を紡ぐ事はしなかった
不思議そうに見つめるマリクに笑顔を作り答える


「・・・ただマリクが褒めるなんて珍しいから驚いただけよ」

「の割には嬉しそうじゃなかったが?」
「だって急な雨は困るもの」
「・・・このっ」
「きゃあっ!ちょ、マリク急に腕を引っ張らない・・・痛い!いったぁぃ!」
「捕まった時の訓練だ。抜け出してみるんだな、片手だから簡単だろ?」

の腕を捻り上げられあっという間に動けなくする
机を挟んで隙間があるというのに、逆手に取られ体を縫い付けられている

「獲物も使わないで無理よ!」
「もしこの状態で大勢に囲まれたらどうするんだ?」
「えーと・・・大人しく捕ま・・・痛たぃぃ!」
「それだと今抜け出せないぞ少しは考えろ」

もう片方の手で何とかしようにもの力ではマリクの腕は外れず
向きを変えようにも腕を引っ張られていて、動かすと肩に痛みが走る

「意地悪〜!!絶対面白がってる〜〜!!」
「まさか、部下のため泣きながら教えているが?」
「マリクの嘘つき!見えないけど笑い声が聞こえるもの!!」
「だったら自分の目で確かめてみるんだな」

「むぅ〜〜!!」





いや

嫌です・・・!








【神の理想のためにお前は選ばれたのだ!その誉れを何ゆえ放棄する!?】












――――嫌です、イヤです師父――――


私は――――など――――はありませ―――――









逃げ出した子羊