ASSASSIN'S CREED



「・・・なんだアイツに付いて行ったんじゃないのか?」


そこにいたのは案の定不機嫌な顔をしたまま仕事を進めるマリクがいた
マリクの視線は机に釘付けでと目を合わせようとしない

「・・・別に頼まれてないもの」
「頼まれたら行くのか?相変わらずお節介な奴だな」

何かと首を突っ込みたがる性格は自覚しているが
マリクの言い方は自分を否定されるようで少し胸が痛む
カンに障るアルタイルだがが気にかける理由が一応はあるのだ


――――アルタイルが好きだった人

昔は高慢で我慢ままならぬような人ではなかったのだが
彼女がいなくなってしまってからアルタイルが変わってしまった
その差を知っているせいか、いまいち憎めない


「・・・マリクそんな風に言わないで」

「っは、事実ではないのか?」
「・・・・・・」

声が低く弾んでいる、この口ぶりはマリクが腹を立てている証拠だ
覚悟はしていたが、その様子を目の当たりにするとやはり気持ちが沈む
仕事をしているマリクの机まで歩いて立ち止まるが
一向に自分と目を合わそうとしないマリクにどう対処しようかと考えを巡らせる

「マリク・・・ねえ怒らないで?」
「別に怒ってなどない」
「・・・じゃあなんでこっち向いてくれないの?」
「仕事中だ」
「ちゃんと帰ってきたじゃない・・・」
「何がだ?別に俺はお前がアルタイルに付いて行こうが知らん」

(さっきまですごく引き止めてたのに・・・)

あんなヤツ気にかける必要がない行くな、と言わんばかりに
睨みつけていたのはどこの誰なんだか
だんだん不満が募ってきたはつい深く考えずに発言してしまう

「もうー私がマリクを置いて行くわけないじゃない、マリク一人だと大変なのに・・・」
「・・・それは俺が一人では何も出来ないと言いたいのか?」


まずいと思った瞬間にはもう遅かった
目尻を吊り上げたマリクをみて、慌てて取り繕うとしたが


「ち、ちが!そんなこと言って!「人を病人扱いするな!」

「・・・っ!!」


マリクは声を荒立て思いっきり机を叩き、室内に乱暴な音が響く
あまりの剣幕には思わず目を閉じ、とっさに顔を庇う仕草をしてしまう
喉は引きつり声にならない悲鳴を発し、肩をふるわせ怯えるの様子を
見たマリクは自分が怒鳴りつけた事を後悔した


「すまない・・・」


マリクは腫れ物扱いされる事を嫌悪する
・・・暗殺者で重要な任務を任されるような地位にいたのだ
過去の栄光と現実の差異が大きければ大きいほど、その傷は深い


「怒鳴りつけて悪かった・・・」
「・・・少し驚いただけだか、ら・・・」

腕の間から恐る恐る目を開け見上げるとマリクがバツが悪そうにこちらを見つめていた
ようやくマリクと視線を合わせる事が出来た
わずかに安堵し腕を下ろすとふと硬く握られたマリクの右手がの目に映った


(・・・・・・つめ、が・・・)



おずおず、と机に置かれたマリクの拳の上には自分の手のひらを重ねる
自分の左手が触れた時に一瞬、ぴくりとマリクが反応するが振り払う素振りはなく
そのまま握っていた手の力が抜けてゆっくりと解かれていくのが分かった

その指をほんの少しだけ絡ませる





「・・・




マリクの右手、絡ませた指から熱を感じる
拒絶されなかったのは嬉しい
何となく恥ずかしいから今は顔は下を向いたままだ

マリクはいったいどんな顔をしているのだろう、少し気になる



「・・・してない、マリクは管区長としてすべて処理出来てるから有能だもの
アルタイルとは軽く挨拶をしたかっただけよ」

「・・・あの裏切り者と何を話していた?最後に叫んでいたのが聞こえた」


どうやら話した内容は興味があるらしくようやく会話が成立したことにほっとする
しかし、アルタイルの様子を見るための取り留めない会話
現状を受け止めきれていない様子、暗殺者としての実力を褒めた事
こんなもの話せばまた機嫌が悪くなる、そう考えクリスは上手く誤魔化す事にした

「それは最後に相変わらず壁を登るのは上手いのね、って呟いたら・・・」
「・・・なんだそれは」
「聞こえちゃってて、お前は本ばかり読んでるから下手糞なんだ、って言われちゃった」
「・・・・・・」

全然気にしていないかのように話すにマリクは顔をしかめ、言葉をつまらせる
アルタイルの言う事は事実で、しかしそれに同意するのも癪である
黙ったままのマリクには軽く頬を膨らませる

「・・・マリクちょっとは否定してくれないの?」
「・・・そうだな・・・あー・・・」
「わ、私そこまで酷くないよ・・・!」
「・・・この間タラルの手下に追っかけられていたのは誰だ」
「あ、あれはあっちが無理やり襲ってきたから・・・」
「その前は警備兵に捕まりそうになっていたな」
「・・・それはその、女の人が絡まれてて・・・」
「弁解はあるのか?」
「・・・・・・ないです管区長」

マリクに自分の失態をづらづらと並びたてられは顔を赤くし小さくなる
女という身分で一人で夜に歩いていると絡まれることが多く不可抗力になる場合が多い
それ以外は完全に自分の責任だが、それを含めて行動しろという事を示している

「・・・面目ありません」
「そう思うなら実力を身につけろ、お前は医者にでもなるつもりか?」

我々は暗殺者

アルタイルと同じ事を言われ、思わずは視線を落とす
兄弟からすると暗殺者の訓練を受けていて医者になるなんて信じられないし
皆、暗殺と怪我のために医学を学んでいる位にしか思っていない

「・・・そんなの、なれる訳ないじゃない」



いや

嫌です・・・!




「・・・、お前まさか本気でなりたいと思っているのか?」
「そんな、情報収集のために医者の真似事をしてるだけよ」

いぶかるマリクにせせら笑うように、アルタイルの言葉を引用する
診療所を設置し怪我人を治療し情報を引き出す、それがのやり方で
教団にも医者はいるがアレは元からその道の専門家だ、医者なんてとてもなれる訳がない

「そのためにアル・ムアリム様だってこの地位を認めているようなものよ」
「・・・俺には煮え切らない態度にしか見えないがな」

暗殺者として羽ばたける可能性があるにもかかわらず
それを掴もうとしないの態度がマリクの気に障る
自分はもう飛ぶ事さえできない――――


「・・・マリク」


棘のあるマリクの物言いにはマリクの眼を凝視する
そこには嫉妬染みた感情を目に宿しこちらを見つめるマリクがいた





いや

嫌です・・・!







救いたかった、それは嘘じゃない


けど本当の理由は違う

嫌だから逃げた、それが真実







逃げ出した子羊