ASSASSIN'S CREED



「あのお方がどちらに味方するかだ」
「俺とお前は敵じゃないぞ マリク」

いがみ合う二人の非難の応酬に私が口も挟めるわけも無く
二人が最後に交わした言葉は以前のアルタイルらしからぬ思慮分別ある言葉だった
顔を背け拒絶する姿勢を見せるマリクになす術はない
支部から出て行こうとするアルタイルを見送ろうとは追いかけようとした


「・・・


だが低いマリクの声で名前を呼ばれ一瞬足を止める
マリクに睨まれは困った表情になる
何せがマリクに町の噂を伝えたその時から
彼はアルタイルの掟破りの行動に憤慨していたのだ


【・・・あの・・・マリク・・・】
【ああ、これは思い違いであると思うが町中が騒いでるのは何故だ】
【・・・えっとタラル殺されたって噂が広がってて・・・】
【アルタイルめっ!!あいつはこの期に及んで何も理解していないのか!!!】


・・・気持ちはわかるが少しぐらい話をさせて欲しい

アルタイルが支部に帰還したその時からマリクのご機嫌な持ち上げという名の説教が始まり
はアルタイルと一言も話していないのだ

「怖い顔しないで」

おそらくマリクの機嫌が悪くなるのは必須だろう
そんな事を考えつつ、自分の名前を呼ぶマリクを無視して
は部屋の外へ走り出た



「アルタイル!」


驚いた事にアタイルはすでに外に出る直前では慌てて彼を呼び止める
アルタイルの表情は読めないがはそんな事お構いなく会話を始める

「・・・なんだ
「アルタイルさっきの任務で怪我はしてないの?」
「・・・いや」
「そうそれは良かった・・・もうアル・ムアリム様の処に帰るの?」
「・・・まだ準備がある」
「お腹すいてるならいいお店紹介するけど?」

体の診察をしながら的を得ない会話を続けるに当惑するアルタイル
彼女はマリクの味方で自分を非難しに来たのではないのかと考えていたからだ

「・・・何か俺に忠告をしに来たのではないのか?」
「何を?」
「・・・・・・」
「私はアルタイルに何か言えるほど偉くないわ」

現には私は暗殺者ではない
正確に言うと違うのだが、とりあえず今は情報を集める役割の方が多い
おまけに変化が見られるとはいえ、唯我独尊のアルタイルを思い出せば言う気も起こらない
それに

「私がアルタイルに何か言ってもこの状況を改善できると思ってない」
「・・・それは」
「今のマリクが貴方を簡単に許すはず無いもの」

弟を殺され、腕を失い、己の自信さえ失った

この傷は深い、それこそ言葉では言い表せないほど
の言葉にアルタイルはバツが悪そうに黙り込む

「アルタイル・・・」

そんなアルタイルの様子を見ては軽くため息をもらした
アルタイルでさえこの事実を受け止められずにいると言うのに
かの口からどうやって謝罪の言葉を捻りでようか
はこれでは進展しないと頭を悩ませ、言葉を選ぶ


「・・・アルタイル私が思うのは、どう足掻いても時期というのが重要で
今はめぐり合わせが悪いと思うわ。だから時間が必要なのよ、マリクも貴方も」



―――時は許す機会をあたえてはくれる

けど、それだけではきっとマリクはアルタイルを心の底から許す事はできない
カダール、マリクのたった一人の家族



「・・・何故俺にも時間が必要なのだ?」

「“分からないなら自分で考えろ”でしょ?も・と・し・は・ん」

アルタイルは相変わらず分かっていないようで、は少し語尾を強めて言葉を伝える
気に障ったようで渋い顔をされたが、少しは思う事があるようで反論はされなかった
これで上に立つ者だったのだから教団の実力主義も考えものであるのだが
同時に間違ってはいない事に悲しく思う


我々は暗殺者

影が傍にあるように、死も寄り添い、弱ければ消えてしまう


「・・・・・・」
「あとやっぱり切り傷と打撲が酷いから薬渡しておくわ」
「・・・ああすまない」
「アルタイル、私は謝られる事はしてないけど?」

が医療をかじり始めてから多くの兄弟が頼みに来るようになって
アルタイルも例に漏れず来た事があり謝罪ではなく感謝を述べよと
昔から言っているのだがこういう事は進歩のない男である

「・・・感謝している」
「よく出来ました」

アルタイルの言葉に満足し笑顔になるとは自分の腰にくくり付けてある
小さな鞄から漏れぬよう葉に包んだ塗り薬を取りしアルタイルの手に渡す
相変わらず傷が絶えない手だ、何度治療したって完治したところを見た事がない
手に残る傷を一つ一つ触りながら思いふける

「・・・まだ何かあるのか」
「あ、ごめん。ただ傷が多いなって思っただけ」
「・・・ふん」
「怒らないでよ、じゃあ気をつけてね」
「・・・ああ」
「安全と平和をアルタイル」

が別れの言葉を交わすとアルタイルは支部から出て行く
出て行くといってもここには扉がないので壁をよじ登っていくしかない
しかしアルタイルは壁の障害をもろともせず、あっという間に天井まで上ってしまう
その鮮やかな技術に思わずため息が出る

「・・・相変わらず実力は恐ろしいくらいあるのに」

「なあにー?」
「お前も医者の真似事ばかりやってないで実力を身につけろ」
「地獄耳は早く行って!」

刃投げるわよと脅せばアルタイルは鼻で笑いながら去っていった
あれで性格がよければ皆に慕われる師範になっただろうが
おそらくそんな性格だと生き残れないのが暗殺者という立場だ
アルタイルの足音が完全に聞こえなくなるとはマリクがいる元へと足を向けた




また会えればいいのだが


そう願っても帰ってこない、それが我々の日常




暗殺者の頂点がために