FINAL FANTASY TACTICS

 





英雄王ディリータの名が歴史に初めて登場するのは
獅子戦争勃発の1年前・・・

五十年戦争の敗北は
戦地より帰還した騎士たちの職を奪い、
王家や貴族に対する忠誠心を放棄させ
盗賊に身をやつす者・王家に対し謀反を企てる者など
大量の凶賊や逆賊を生み出した・・・

そのため、当時のイヴァリースは
強盗や殺人が日常茶飯事に起きるほど治安が乱れており
幾人もの英雄や魔道師を輩出した

ここ、ガリランドの町もまた例外ではなかった…







『士官候補生たち』
ガリランド王立士官アカデミーの講堂に
卒業を間近に控えた数人の士官候補生たちが集められた
ガリオンヌ地方を荒しまわる骸旅団(むくろりょだん)
と名乗る盗賊団のせん滅作戦が北天騎士団を中心に計画されており
士官候補生たちにその後方支援を担当させようというのだ






――――ガリランド王立アカデミー――――






「・・・昨夜もイグーロス行きの荷馬車がやられたんだとさ」

「それも、骸旅団の仕業なのかしら・・・?」



ガヤガヤと講堂全体に鳴り響くほどに響き渡る会話
初めは緊張した面持ちで整然としていた生徒達も、待機という命令から大分時が経ち
各々好き勝手しているようで、いくつかの生徒達は世情について雑談していたりと
授業も中止なり、駆り出されたラムザ達も例外ではなかった


「これから何が始まるんだろう? 知らないか、ディリータ?」
「いや・・・。ただ、ある程度の想像はつくが・・・・・・」
「というと?」
「ラーグ公がこの町へおいでになる」

「ラーグ公って、あのガリオンヌの領主にして、王妃ルーヴェリア様の実兄の?」

が驚いた顔をしてディリータに尋ねると、ディリータは顔を小さく縦に振った
ラーグ公は五十年戦争でも活躍した将軍の一人であり王家の分家の一員でもある

「ラーグ公が・・・? 何故?」

訝しい顔をするラムザに同意しながらもディリータは続けて

「ラーグ公だけじゃない。ランベリーの領主・エルムドア侯爵もだ」
「それは初耳だ・・・公式訪問じゃないな」
「軍人でもあるエルムドア侯爵も訪問なさるなんて、何かあるのかしら・・・?」

分家に、五十年戦争で活躍した軍人が非公式で訪れるなど穏やかな事ではない
何か只事で終わりそうにない事態に憂えるだが

「さあな、それは起こってからじゃないと分からないな」
「もうディリータ、私は真剣に言ってるのに」
「今のイヴァリースはどこもかしこも“危険地帯”ばかりだ
 騎士団は八面六臂の大活躍だが、実際には人手が足りない・・・」
「で、僕たち士官候補生ってわけか」

ラムザとは真剣に語るのにの時は茶化す様に答えるディリータを睨みつける
だが迫力がないのでディリータは軽く笑うだけに終わった

「むぅ・・・・」
「大丈夫だよの考えも一理あるってディリータも分かってるから」
「・・・本当?ラムザ」
「うん」

「ラムザ」

ラムザの答えに嬉しそうに笑顔を浮かべる
一方で余計なことは言うなとばかりラムザを見るディリータだが
ラムザはとそんなディリータの様子をからかい合うだけだった



「一同、整列ッ!」



だがそんな語り合いも精悍な号令と共に静まり返る
達は慌てて整列し、教壇に目を向ける
重厚な鎧に、紋章を掲げた外套、そしてその下から見える屈強そうな剣

――――北天騎士団の騎士


(ラムザのお兄様・・・ザルバック様の騎士の――――)


ベオルブ家の二男であり、北天騎士団団長のザルバック・バオルブ

その強さは先の戦争でも活躍した常勝無敗の武人、そしてラムザにも優しい人
――――もし、卒業したらラムザ達はザルバック様の所に所属するのかな・・・
ラムザもディリータもバオルブ家に関わるものだ、無いとは言えない


・・・・でも私は――――


!!!」
「・・っは、はい!!!」

突然、大声で自分の名前を呼ばれ、反射的に答える
考え事をしていたせいか、全く話に集中できていなかった、まずい

どうしたんだ?」
「ディリータ・・・・驚かさないで・・・」
「でも僕が話しかけても全然気付かなかったよ?」
「・・・まさか・・・」

ラムザに気付かないなんて、というより人に話しかけられて気付かないという
卒業まじかの王立士官の生徒がするべきではない失態

「・・・・ごめんなさい・・・」

と首を下に向けて謝るにラムザは気にしないでいいよと頭を撫でるが
は内心焦っていたラムザもそうだが怒鳴る声の主がディリータだと気付かないほど
自分が考え込んでいた事は許されるべきではない
そして、追い打ちをかける様にディリータが

「で、話は聞いていたのか?」
「・・・・・・」
?」
「・・・まさか、聞いてなかったのか?」
「・・・・・・ごめんなさい」

怒るというより、もはや呆れるという表現の方がぴったりとくる二人に
居た堪れなくなってはもう一度、謝罪した
北天騎士団直々の命をまるで聞いていなかったのだから

・・・」
「・・・少し考え事をしてて」
「少しどころじゃ済まなそうだが」
「・・・・・・」
「ディリータ!」

ため息をつくディリータにますます落ち込む
そしてなだめつつ、状況を説明してくれるラムザに有難さには涙が出そうになった

「・・・ありがとうラムザ」
「緊張したからだよきっと、実質初陣だし」
「はあ・・・僕達も初陣は同じなんだけどな」
「ディリータ・・・」

何か言いたそうなラムザにディリータは笑いつつ
もう行くぞ、とばかりにの手を握りめ移動する

「・・・っ!・・・もうディリータ急に引っ張るなんて」
「と言っても誰かさんが話聞いてないせいで、皆はもう移動しているんだが」

そう言われて周りを見渡すと自分たち以外には誰もおらず、かろうじて
最後の一人が講堂から出ていったのがの目に映った

「・・・・・・・うそ」
「嘘じゃない」
「支度を早くすれば集合には十分に間に合うよ」

ラムザの言葉に安心してほっと息をつく
ようやく落ち着いて状況を把握できるようになったとき
ふと自分の手を掴む主が気にかかった

「・・・ディリータ怒ってない?」

緊張のせいか、少し手に力が入って恐る恐る尋ねた
話を聞いていなかったのは迷惑をかけたと思う
そんなの様子に気付いてか、ディリータは自分より小さな手を握り返して

「・・・別に、怒ってないよ」
「ほんと?」
「・・・嘘ついてどうするんだ?」
「だって!」

ディリータが私に意地悪をする時は怒ってる場合が多い
だから

「・・・・だって」

声が沈むのがわかる
そんなの様子に気がついたのか、ディリータは相変わらず前を向いたまま

「・・・・・怒ってないよ本当に」
「・・・・う」
「ただ、困っただけだ」
「こまる・・・?」

予想外の答えに驚く、だけどそのあとに続いた言葉に
表情を失う


「僕たちみたいに誰もかれも助けてくれるとは限らないんだぞ
しっかりしないと僕たちがいなくなったらは――――」








――――可哀想な子だ




―――――――お前は一人だよ、永遠に





「・・・・っ!!!」



「・・・・・?」
「立ち止まってどうしたの?」

突然ディリータの手を離して立ち止まったに驚く二人
だけど本当に驚いたのはの顔から、落ちた涙を見たとき

!!君泣いて!!」

ラムザがの顔を覗き込もうとするが
は手の甲で涙をぬぐうふりをして顔を隠そうとする

・・・」
「・・・ディリータ違う、の・・・ちょっと目に塵がは・・いって・・・」

嘘だという事は明らかで心配そうに見つめる二人が分かる、けど顔を上げられなくって
声を出そうとしても、喉が強い力で引っ張られるような感じがして
そして、それが泣いているような声にしかならないと知っていて

「・・・ごめ・・・」
「僕が悪い事を言ったのか・・・?」
「ちが、う・・・なに・・も悪くない・・の・・・」



違う、ディリータは悪くない、私が勝手に、ずっと一緒にいられると


私が勝手に―――――



「ほ・・んとに・・ち、がう・・の・・・」
「すまない、僕が悪かった・・・」

違うのだと、自分が悪かったとディリータの言葉をただただ否定する
悲しくて、小さくて
このまま別れれば、そのまま駈け出して、帰ってこないように思えて
の身体にに腕を回して抱きしめた

「・・・ご・・めん・な・・さ・」
「違う、僕が悪い・・・にあんな事言うべきじゃなかった」

ディリータもラムザもまだ知らない、でも頭のどこかでは薄々感じているのかもしれない
ここを卒業すれば今までの様にと共に過ごせなくなる事を
の顔に身を寄せてすまないと言って、また強く抱きしめた
ラムザも心配そうに、だけどさっきみたいに大丈夫だよ、とは言わなくて

・・・」
「ごめんなさ、い・・・」

ディリータに抱きしめられて、温かさが伝わって
このぬくもりが無くなると思って、余計にまた涙が出て

しばらくは泣き続けた

















二人は親友、ずっと一緒にいられる
でも私は