永遠にとはいわないだけど、せめて



あの人と歩く道が好きだった、あの人と過ごす時間が好きだった
いつも険しい顔している貴方が、ほんの少しの違いだけど穏やに微笑む表情が好きだった

けれど今はその面影などな い





「・・・・なぜ・・」




ぽつり、と呟いた私の声が聞こえたのか
ザルバックは読んでいた本から目を離し私の方に視線を向けた

「どうした
「・・・・早く戦争など終わればよいのに、と」
(なぜ、ラムザは帰ってこないのですか・・・?)

戦火が始まってから城では姿が見えなくなり
アルマに会いたいと無理を言って行く本家でさえ気配すら感じられなかった
そんなことを今のザルバックに言えるわけないのだが

「・・・・なんとか持ちこたえているものの、長雨での食糧問題が深刻だ」
「あちらも干ばつで食糧危機のはずです・・・・」
「こちらは難民問題も抱えているのだ!!おまけに王女誘拐の件はどうなる!!」
「・・・・で、ですがこのままでは両方とも共倒れです・・・・和平工作は無理なのですか?」

王女を誘拐したのはあちらだ、それは事実のはず
しかしその痛みだけでは王権をこちらにするのは難しいだろう
だけどこのまま戦争が続けば・・・・

「・・・・それは本気で言っているのか

冷たい声が私の思考を遮った
声を荒げなかったものの、表情は怒りを表しているのと同じだった
自分の言葉がに気に入らなかったのだろう
このような顔をさせたくて言った訳ではないのに

「・・・・・」


冷たい声が部屋に響く・・・・冷たい声で名など呼ばれたくない
久しぶりに会ったザルバックは戦況が思うようにいかず機嫌が悪く
会話をしたとしても今のようになり、昔のような弾む会話などなかった
王都ルザリアが美しい頃はすべてが幸せだったというのに

「・・・・・・・私はザルバックの苦悩する姿など見たくないの」

十分な食料もない、溢れかえる難民、戦争は泥沼化する一方
このままいけば、貴方はは今まで以上に頭を抱えるでしょう
ズキリと痛む手首を押え、つぶやいた
痛みがあるうちはまだいい、これがもし痛みさえ貴方から
与えられなくなったとしたら、私はどうすればいいのだろうか

だけど、貴方は


「・・・・それが私の使命だ」


重く吐いた言葉に迷いはなかった
逸らさぬ目、それは誇りと使命を表していて


「・・・・・・・・っ」


・・・・わ、かっていました
貴方はそういう人です・・・・私の言葉などで意思を変える貴方ではないと
だって貴方は私ではなく、国を守る騎士で将軍で

「・・・・・だけど、それで も」

・・・・それでも願わずにはいられなかった

それに戦争が終わればラムザも帰ってきてくれるのではないかと
いや、帰れなくともあの優しい子が今よりは心を痛めぬだろうと、そう思いたかった

「・・・・

うつむいた私の頬にかすかに触れた手
しかし私はその手を顔を反らし避けた
泣いた顔など見られたくはなかった、涙を流してたとしても何も変わらない
な、にも変わりはしないの だ


「・・・・もう帰ります、出すぎた事を言いました」

座っていた椅子から立ち上がり急ぎ足で去ろうとしたが
待て!という声に一瞬だが反応してしまい、ザルバックにやすやすと阻止された
手首をつかまれ痛みに顔しかめるだが

「・・・・っ」
「待て、・・・っお前」
「っは、離して下さい、わ、私の話は、きゃ!」

その顔に違和感を感じたザルバックはいきなりの袖をめくり上げた
その行為に驚いたクリスは逃げようとしたが、それはザルバックが許しはしなかった
そして捲られたそこには赤く腫れた手首が見えた

「・・・・私のせいか」
「さ、昨夜のせいではありません」

ザルバックの沈んだ声と表情に胸が痛みとっさに反論したものの
私の答えに納得するはずがなく、むしろそれがさらなる墓穴を導き出したようなもので

「・・・・、ならばお前は私以外の男と寝たというのか」
「そんな事ありえませんっ!!・・・っ!」

怒鳴り声をあげた自由がきく手では口を押さえた
声を荒げた事にたしてだが、ほぼ誘導といってもよい問いかけに
正直に答えてしまった事に対しての行動だ

(ひどい、私がするはずがないと知っているからってあんな事を・・・)

「・・・・ならばなぜ言わなかったのだ」
「・・・・・」

黙ってしまったにザルバックは言いすぎたと自覚し、息をついた
ため息に体をビクリと震わせただがザルバックは先ほどとは違い
掴んでいた手を離し、いたわる様にクリスの腕を撫で、優しく名を呼んだ


「・・・・・っ」
「すまなかった」

短い謝罪の言葉、だかそれにはすべての事がこめられていて
振り向いたにザルバックが指に口づけを落とす
閉じていた瞼を開きの表情を深く見つめる、その視線にようやくは口を開いた

「・・・・・貴方に負担をかけたくなかったからです」

いつもはやさしい腕、なのに昨夜はその優しさなどなく
それほど腹立たしいことが多いのだと、そう思い黙っていた

「・・・・・・すまぬ」

傷を避け逃げぬ意志がないのを確認するとゆっくりとを抱きしめた
はその胸に体を預け、ゆっくりと目を閉じた

「・・・・貴方のせいではありません」
「だが・・・・」
「戦争が終わればよいのです・・・」



戦争が終われば貴方は悩まなくてすむのでしょう
そしてまた、微笑んでくれるのでしょう

だから、お願いザルバック


・・・・今だけは


今だけは、その優しさ、を





永遠にとはいわないだけど、せめて